フランスのアルザス欧州日本学研究所(CEEJA)と国際交流基金による日本研究セミナー『デジタル・メディアとコミュニケーション』に講師としてお招きいただきました。3泊4日の合宿集中セミナーのオープニングとして、『Society 5.0: 2030年におけるデジタルウィズダムと日本社会について考える』について基調講演を行いました。
2017 年 9 月24日から27日まで、フランスのコルマールにあるCEEJAで開催されたこのセミナーは、ヨーロッパの若手/中堅日本研究者のための研究の向上とネットワーク形成を目的としています。ロシアやウクライナ、フランスやスペイン、ハンガリーなどの国々から多様な分野の若手研究者が参加しました。基調講演のあと、オブザーバーのCEEJAの所長Enrich Pauer教授、Regine Mathias教授、ストラスブール大学の哲学者である黒田昭信先生と一緒に参加者一人一人の研究発表に対してコメントをし、活発な議論が展開されました。
既存の日本研究と同様に、今回のセミナーでも、例えば日本のテレビで放送される「謝罪会見」など西欧から見ると特異な日本人の行動やコミュニケーションなど、日本文化の特殊性に焦点をあてた研究発表が多かったように思われます。
ただその中でも、日本の事例を研究することによって、他国で起きている同様の問題解決のための手がかりを得ようとしている研究もありました。例えば、ロシア国立研究大学高等経済学院講師のキクテワ・マリアさんによる「北海道の都市ブランディングにおけるソーシャルメディアの活用」では、財政破綻した北海道夕張市の鈴木直道市長が、Twiterなどソーシャルメディアを活用することによって復興を試みるケースについて議論されました。日本の地方自治体のソーシャルメディアに関する試みが、ロシアや他国が直面している同様の問題解決のために参考になる点がわかり、とても興味深かったです。
ヨーロッパの若手/中堅日本研究者の研究の向上とネットワーク形成という目的において、このようなセミナーが開催されることはとても重要だと思います。一方、このセミナーのもう一つの目的である日本研究全体の充実のためには、日本の特殊性ばかりでなく、日本のケースが地球規模の問題に寄与できるようなより高度なレベルの研究が求められると思います。
日本は、世界に先駆けて超高齢社会になっていきます。また、スマートフォンやソーシャルメディアをはじめ、AIやロボットなど、テクノロジー先進国でもあります。世界的に普及している(あるいは今後普及していく)デジタル・メディアやテクノロジーに関する日本の事例を研究することが、世界的にどのような意義があるのか、日本の特殊性とともに普遍性についても探求することが大切なのではないでしょうか?
謝辞
国際交流基金ならびにアルザス欧州日本学研究所(CEEJA)の皆様に心より感謝いたします。
追記
今回のセミナーにおける各発表論文は国際交流基金のホームページに掲載されています。
http://www.jpf.go.jp/j/project/intel/exc…
高橋利枝(メディア・エスノグラファー、早稲田大学文学学術院教授)