ロボットの社会的インパクト

人とロボットの相互作用に関するフィールドワークを行っています。第1回目は、産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門上級主任研究員の柴田崇徳教授とともに、特別養護老人ホームで高齢者とロボットのエンゲージメントに関して、インタビュー調査や参与観察を行いました。当日は、経産省とロイター通信の取材も入っており、超高齢社会におけるロボットの利活用に関して、国内ばかりでなく、海外からも大きな関心が寄せられていることがわかります。

フィールドワークは2018年2月2日、積極的にロボットの導入・利活用を行っている社会福祉法人シルバーウィングで行いました。この施設では、パロやアイボ、ペッパーなどのコミュニケーション・ロボットや、介護用マッスルスーツやロボットスーツなどの介護支援用ロボットも多数取り入れています。各フロアには個室の他に共有スペースが設けられています。認知症の方は、昼間眠てしまうと、夜眠れなくなるため昼間は共有スペースで一緒に過ごすそうです。共有スペースには5名の方がおり、私たちはロボットを使用する前と使用している時間を長時間にわたって観察しました。

ロボット使用前の様子

ロボットを使用する前は、お互いにあまり話をすることもなく、それぞれがテレビを見ていたり、本を読んでいたり、ただ宙を見たりしながら、静かな時を過ごしていました(写真右)。

しばらくして職員さんがパロとアイボを持ってきてテーブルの上に置くと、この光景は一変します。目の前で動いたり鳴いたりするアイボやパロに驚いたような表情を見せながらも、ロボット達に話しかけたり、撫でたり、可愛がったり、フロアにはたちまち笑顔があふれました。そして時間の経過とともに最初の興奮は収まり、中にはロボットとのコミュニケーションに飽きてしまった人もいました。

しかしながら職員さんが隣に座ると、パロを抱いたり、撫でたりしながら、嬉しそうに職員さんとお話をしていました。この光景は、高齢者の方ばかりでなく、職員さんにとっても幸せな時間のように映りました。

ロボット使用後の様子:パロとアイボに笑顔で触れ合う利用者

「職員が笑顔になることも大きな効果です」と施設長の関口ゆかりさんはインタビューに答えてくれました。

フィールドワークを終えて、「人間は健康で自立していれば幸せというわけではない。」という石川公成理事長の言葉が最も印象的でした。私たちは、身体の問題ーすなわち歩いて自立できることーばかりに目が奪われがちですが、たとえ歩けるようになっても心の問題が大切だということです。

暗くなってしまいがちの介護の現場で、コミュニケーション・ロボットを導入することの意味は、ロボットに介護を任せるのではなく、介護される側と介護する側の両方の心を癒し、媒介(メディア)として、両者の心を結びつけてくれることなのではないでしょうか?このようなAI時代における心の問題は、高齢者ばかりではなく、働き盛りの人にとっても、ベーシックインカムの導入などの議論とともに、今後最も重要なテーマの一つとなるでしょう。

謝辞

ロイター通信の取材に答える利用者

今回のフィールドワークに関しまして、多大なるご尽力を頂きました、産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門上級主任研究員の柴田崇徳教授、社会福祉法人シルバーウィングの石川理事長、関口施設長はじめ、関係者の皆さまに心より感謝いたします。ご協力どうもありがとうございました。