国際学会発表「グローバル時代における『デジタル・リテラシー』の可能性」@IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会) 2016

グローバル時代における「デジタル・リテラシー」の可能性について、国際メディア・コミュニケーション学会で発表をしました。

%e5%86%99%e7%9c%9f7-10-%e4%bb%b2%e9%96%93%e3%82%a6%e3%83%81%e6%97%85%e8%a1%8cなぜ今デジタルリテラシーが必要なのでしょうか?その理由は、デジタル時代、グローバル世界において、私たちが恩恵を受けることのできる新たな機会を最大に享受するためです。ユネスコを始め世界各国は、グローバル社会を生きるために必要な力として、デジタルリテラシー教育を奨励しています。日本でもグローバル人材に必要な能力の一つとして重複する要素のあるメディアリテラシーがあげられています。

現在日本では、21世紀に求められる若者像として、「グローバル人材」という言葉[1]が、産業界や、国や地方自治体、高校や大学など産官学において、様々な分野で取り上げられています[2]。その社会的な背景にあるのは、第1に2020年東京オリンピックの開催、第2に人口減少国家としての日本[3]、第3に中国やインドなどのような強大な新興国の台頭による日本のプレゼンスの低下に危機感を抱いていることでしょう。高校や大学などの教育機関では、スーパーグローバル・ハイスクールやスーパーグローバル・大学など、「グローバル人材」育成のための多様な試みがなされています。また、企業も若い社員の海外派遣など積極的にグローバル人材育成を行っています。

しかし、当事者である若者たちに聞いてみると、「グローバル人材」という言葉に関して認知度はあるものの、単に「英語ができる人」や「海外で働く人」などと答えています。また、自分がグローバル人材になることが求められているという実感がないため、グローバル人材には「なりたくない。日本が好きだから日本で働きたい」や「なりたいとは思うけど、別世界な感じ」などと言い、他人事と捉えていました[4]

21世紀、日本の若者が身につけなければならない「グローバル・リテラシー」とは、一体何なのでしょうか?

この学会発表では、メディアリテラシーに関する主な先行研究から、デジタルリテラシーを暫定的に「デジタル社会において生きる力」と定義し、そのために必要な能力として「アクセス」「クリティカル(分析・評価・解釈)」「コミュニケーション能力(表現・創造・参加)」の3つに集約しました。そして、日本、アメリカ、イギリスにおける若者とメディアのエスノグラフィによって得られた5つのオーディエンス・エンゲージメント—アクセス、クリティカル、戦術的消費、協働、共有・参加—のうち、特にアクセスと参加に注目して、グローバル時代におけるデジタルリテラシーの課題と可能性について考察しました。

詳細は、高橋利枝「デジタル・ウィズダムの時代へ:若者とデジタルメディアのエンゲージメント」新曜社(近刊)を参照してください。

(Takahashi, T. “Preparing the Young for Japan’s Global Future: Opportunities in Digital Literacy” 2016 Preconference of the International Association for Media and Communication Research (IAMCR), ‘Children’s and Young People’s Rights in the Digital Age’, LSE, UK, July 2016.)

注釈

[1] 2000年1月河合隼雄氏を座長とする「21世紀日本の構想」懇談会において、すでに「15年から20年後に到達することが望まれる日本人の姿」の一つとして、「グローバルリテラシー(国際対話力)」(I.情報技術、II.英語、III.コミュニケーション能力)があげられている。

[2] 2011年6月に提出された「グローバル人材育成推進会議中間まとめ」は、「グローバル人材」を以下のように定義している。

  1. 語学力・コミュニケーション能力
  2. 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
  3. 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティ

(その他、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークとリーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等の能力)

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/110622chukan_matome.pdf (アクセス2016年4月1日)

[3] 例えば、2015年9月に東京で行われた「金融リサーチの最前線と今後の金融、経済の課題」と題されたシステミック・リスク・センター(LSE)によるセミナーにおいて、人口減少と超高齢化社会によるリスクが示唆された。Systemic Risk Centre and London School of Economics and Political Science (2015) “Frontiers of Financial Research and Future Financial and Economic Challenges”, Tokyo, September 8. また、日本再建イニシアティブ「人口蒸発『5000万人国家』日本の衝撃」新潮社、2015年など。

[4] 早稲田大学文化構想学部高橋利枝研究室では、デジタル時代における新たなチャンスとリスク、デジタルリテラシー、グローバル人材に関して、2013年には日本の高校生100名と大学生100名の計200名を対象としたアンケート調査を行った。また、2013年から2015年にかけて、15歳から23歳までの117名に対して詳細なインタビュー調査を実施した。

About Toshie Takahashi

Toshie Takahashi is Professor in the School of Culture, Media and Society, as well as the Institute for Al and Robotics,Waseda University, Tokyo. She was the former faculty Associate at the Harvard Berkman Klein Center for Internet & Society. She has held visiting appointments at the University of Oxford and the University of Cambridge as well as Columbia University. She conducts cross-cultural and trans-disciplinary research on the social impact of robots as well as the potential of AI for Social Good. 【早稲田大学文学学術院教授。元ハーバード大学バークマンクライン研究所ファカルティ・アソシエイト。現在、人工知能の社会的インパクトやロボットの利活用などについて、ハーバード大学やケンブリッジ大学と国際共同研究を行っている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジー諮問委員会委員。】
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